オーガニックの現場から
インドのオーガニックコットンほ場。大型の機械を使うような農場はあまりない。 photo by Mutsumi Sakuyoshi

特集:オーガニックの現場から ~オーガニック認証の専門家に聞く~

第三回 有機栽培を知る

2016.1.11

<オーガニック認証のスペシャリストに聞く> 第三回は、実際どのように有機栽培が行われているのか、そして、どうして有機栽培なのかを伺います。お話はオーガニック検査員協会代表理事の作吉むつ美さん、聞き手はハーベスト・プラス店長の高橋です。

土づくり・種・水・肥料 ~ いただくもの以外は土に返す

--- 農業で最も重要なことの一つである土作り。オーガニックコットン栽培ではどのよう行われているのでしょうか? ピーナツや大豆など、豆科の作物と交互に栽培(輪作)することで、土中の窒素を循環させるという話は聞いたことがありますが。

「輪作は、コットンに限らず、土作りに大切なことのひとつです。
オーガニックコットンとピーナツや大豆を輪作するのはテキサスあたり?だと思うんだけど、もちろん土地によって違います。
要は、人間の栄養と同じで、同じものばっかり食べるなよ、ということです。

植物によって、摂る栄養も、出すものも、それぞれ違います。
それに根が深く張るものもあるし、横に広がるものもある。それを交互に植えていくことで、植物が土を耕してくれるとも言われています。
根がはえて、そこに微生物とか菌がつくことによって、またその土地の環境が変わる。 土壌の変化と共に、発生する虫や病気も変わってくる。
植える植物によって、土壌の環境が変わってくるということです。

なので、その土地に適した植物、相性がいい植物を、どう組み合わせるかが農家の技術でもあるんですよ。

アメリカでマメ科の植物を植えるのは、肥料の替わりにもなるからですね。
日本では、狭い土地で集約的に生産しなければならないから、 肥料や農薬を外からたくさん入れます。
しかし、アメリカや中国などの広大な土地では、とてつもない肥料代がかかってしまうから、 輪作自体を肥料にしているんです。

お米の収穫量でいえば、静岡あたりでは(1反当たり)平均6俵、7俵、 多ければ10俵程度取れると思うんだけど、 検査員になった最初の頃、カリフォルニアでは何俵取れるか聞いたら、なんと3俵! 十分な栄養を入れられないからですよね。最近は技術も進歩して、6俵とっているという話も聞くんだけど。」

--- えっ? アメリカの方が収穫量が少ないんですか?! 

「少ない、少ない。
だって、肥料やらないし、草もとらないし、かける手間もぜんぜん違う。
草の管理は、水やりの量を増やすか減らすかで調節したり。

彼らは土地が広いから、総量にしたら日本より取れるけど、面積当たりの収穫量は日本の方が多い。

でも日本の農家が、アメリカのようなやり方してたら食べていけないですよね。日本では土地が狭い分、肥料を買って、入れて、外から栄養を投入して、収穫量を増やしているわけです。」

--- 恥ずかしながら知りませんでした!聞いて初めてなるほど、、と。
他にもコストがかからない肥料として、堆肥も使っているんですよね?

「有機の土づくりでとても重要な堆肥は、 草木等だけで作る場合もあるけど、畜糞尿を使うことも多いです。細かい条件はありますが、有機農業では”草木+畜糞尿”を基本にしてます。

世界で最もオーガニックコットンの生産量が多いインドに関していえば、 堆肥を使う理由は、最も身近にある肥料だから。自分たちで飼っている馬や牛でできるから、あえて買う必要がないんです。

でもそれだけじゃ足りないから、実など必要な部分だけを取った他の作物を、土にすきこんだり、堆肥に混ぜて肥料にしたりしています。 やがて、ミミズや微生物が分解しながら土を耕し、有機物が無機化されることによって(窒素が) 吸収されやすくるという循環を作ってくれます。
つまり、微生物の力を使って、次の作物に生かすという発想です。

それは、いただくもの以外は土に戻してあげようという考え方でもあります。

あまり大きな生のゴミがあると分解に時間がかかったり、途中で出てくる酵素なんかが悪くなるから、少し休ませるとか、堆肥化してから入れるとかが生産者の技術なんですね。

ただ日本では、有機の流派によって、畜糞尿は使わず植物性のものに限っているところもあります。 ヨーロッパや北米などでは、けっこう畜産が軸になってオーガニックの体系があったりしますが、日本はコメの国だから。」

-- 有機で使う種については、遺伝子組み換えでなく、 発芽促進剤などを使用していない種の利用が前提になっていますが、種の確保が現在のオーガニックコットンが抱える最も大きな問題だといわれていますね。

「在来種を自家採取すれば、翌年から種を買わずに済むんだけど、綿花の場合は種を採るのに手間がかかるので、 実際はF1種が一番多いと思います。
ハイブリッド(F1種)のものは、一代限りですから、どうしても買い続けることになり、 遺伝子組み換えでないF1種の確保が難しくなっているようです。」

  • ※ 在来種 (Native species)=固定種とも呼ばれ、その地域で昔から続いている原種。
  • ※ F1種 (Filial 1 hybrid)=一代交配種。安定した収穫や見栄えの良さのために交配によって作られた種。
  • ※ 遺伝子組み換え種 (Genetically modified crops)=除草剤耐性、害虫抵抗性を持たせるため人為的に遺伝子を操作して作られた種

--- 素朴な疑問なんですが、海外の広大な土地では、水やりはどうやしているんでしょう?水源は?

「降雨が少ないアメリカの西海岸の稲作農家の場合は、河川から水を引いて、スプリンクラーで撒くなどしています。
だから住人に『俺たちの水を・・・』って快く思われていないケースもあるようです。 水に関してはとても深刻で、アメリカの中部の川から西海岸まで、ものすごい距離を引っぱってきているケースもあります。」

--- 日本でも農業用水の確保は大変ですよね?

「日本はアジアモンスーン気候で、雨が多くて恵まれているけれど、 それでも水をめぐって揉めることはありますね。

ただ日本では、雨水でやっている人がかなり多いです。 有機の検査の時にも、水のことを聞くんだけど、 まあよっぽど日照った時以外は、雨水を使ってますね。
一方、カリフォルニアのオレンジ農家なんて、雨が降らないからスプリンクラーのお世話になるしかない。

2年前のことなんだけど、カリフォルニアの有機生産者が、大量に水を撒き散らすスプリンクラーは無駄だから、少ない水をいかに効果的に使うか考えた結果、 根元にピンポイントで点滴してやっているという苦労を語ってくれました。

インドでも、水の問題はたくさんあります。
技術が進んできて、いろんな場所から水を引き上げたり、引っぱってきたりして やってるんだけど、それも枯渇してくるんですよ。で、やっぱり、その地域で昔からやってきた方法が継続性が高いことに気づく。 それだけではまわっていかないのも事実なんですけどね。

有機で言われるのは、やっぱり必然性があるからやるんだということです。」

世界土壌デー
2013年12月の第68会期国際連合総会で、毎年12月5日を世界土壌デーとすること、2015年を国際土壌年とすることが決議されました。

****国連決議文(抜粋)****
土壌は農業開発、生態系の基本的機能および食糧安全保障の基盤であることから、地球上の生命を維持する要です。
さらに、土壌には、経済成長、生物多様性、持続可能な農業と食糧の安全保障、貧困撲滅、女性の地位向上、気候変動への対応、水利用の改善など、様々な問題を解決する可能性が秘められています。
この土壌を正しく認識し、適切に管理し、守っていくことこそが「我々の望む未来(The future we want)」の実現に大きく貢献します。限りある土壌資源を見つめ直し、その持続性を増進すること。それが今まさに求められています。

害虫駆除・除草 ~ 自然に逆らわないということ

--- オーガニックコットン栽培の害虫駆除では、マリーゴールドのような害虫忌避(きひ)の役目をする植物を植えたり、 畑の周りに虫が好む植物を植えたり、てんとう虫などの益虫を使うということですが、 特に印象深い方法や出来事はありますか?

「そうですね、てんとう虫だけじゃなくて、葉っぱの裏に天敵を貼り付けてやったり、 ヤドリギを一定間隔に置いて鳥を呼び寄せ、虫を食べてもらったりという方法もあります。
マリーゴールドは虫を遠ざけるバリアの役目なんだけど、逆に、コンパニオンプランツといって、あえて虫が好む植物を植え、コットンを生かすために犠牲になってもらうという方法もあります。
どの方法が一番良いというよりも、その土地に最適な組み合わせで考えられているんだと思います。

でも、もちろんそういう技術は大事なんだけど、 私はやっぱり、土づくりや品種と作付けの時期など、自然に逆らわないということが ものすごく大きいんじゃないかと思います。
無理に作ると、いろいろな弊害が出てくる。

だから普通に、その子が育ちたい時期に植えてやれば そんなに難しくないことでも、時期をずらしたりすると どこかに無理がかかるから弊害が出て、結果なんらかの対処を講じなければならなくなる。
もともと持っている性質に一番適した時期を選んであげればいいんだけど、 農業生産って、天候も関係するし、全て理想的に整えてあげることはできないじゃないですか。同時に他の作物も栽培している農家も多いから、その子のためだけに全精力を傾けることもできないしね。」

--- 除草については、広大な土地では、どのような方法で行われているんでしょう?全て手作業というわけではないですよね?

「もちろん、機械で除草するところもありますよ。
アメリカのものすごい広い土地だと、トラクタで畝の間を耕運することでできるし、 手でなんかやってらんないよね。コットンじゃないけど、酢を使うというのも聞いたことがある。
でも、少し前に私が見たインドの農家は、ひたすら手作業。
大きくすきこむ時は、牛を使ったり。
今では機械を導入している所もあるかもしれないけど。
ただ、人件費がそれほど高くはないため、人手の方が確保しやすい地域があるのも事実です。」

手摘み収穫 ~ 一本の木からすべて採りきる

枯葉剤をまいた後の『一般綿』の畑。一斉に葉っぱが枯れているのがわかります。 photo by Mutsumi Sakuyoshi

--- 一般綿は、主に機械を使って効率的に収穫し、葉っぱがあると邪魔だから枯葉剤を散布したり、収穫しやすいように農薬を使って綿花の高さを揃えたりして合理的な生産を行っています。オーガニックコットンでは、やはり手摘みが多いのでしょうか。

「機械を使うところといえば、北米とかオーストラリアあたりでしょうか。
でも、途上国では基本は手摘みです。
手摘みの良いところは、無駄がない。1本の木からすべて採りきれる。
機械でに収穫すれば効率はいいけど、取れないもの、まだ開いていないものもあるから無駄も多い。」

--- オーガニックコットンの生産者は女性が多いと聞きますが?

「多分、細かい作業が多いからじゃないでしょうか。 力が必要な作物は男性だけど、コットンのように花を摘んだり、綿花を摘んだりするのは 女性や子供に向いている作業ではあると思います。 だからこそ子供の就労の問題があるんだけど。 日本でも昔は、綿花を育てて、糸を紡いで、機織まで女性がやっていたんだものね。

なにしろ、コットンボールは収穫が最も手がかかるんですよ。
何故なら一度にはじけてくれないから。だから手摘みが一番無駄がない。
今日採れる分、明日採れる分・・・延々と収穫が続くわけで、女性にとっては、やりやすい仕事かもしれません。」

---収穫後はどんな流れ?

「地域によりますが、インドでは、コットンボールに付いた枯れた枝葉を取る作業を、各農家が道端でやってたりします。それから組合などの工場に運ばれて、そこで加工される。テキサスでは、収穫後は組合などの工場に持ちこむことになります。 」

--- ”有機栽培を知る”という大仰なタイトルを付けてしまいましたが、私にとっても初めて知ることや、いろいろ考えさせられることばかりでした。
次回は、実際にオーガニックコットンに関する数字を見ながらお話を伺いたいと思います。長々とありがとうございました。

世界のどこでも、綿はほかのどの作物より多くの化学物質を浴びている。


綿花農場は世界中の農地の2.5%に過ぎないにもかかわらず、綿栽培には世界の殺虫剤使用量の16%が使われていることが、環境司法財団が農薬行動ネットワークと協同で行った研究によってわかった。
これらの殺虫剤は、そもそも生物にとって有害なものだが、 世界各地の河川、湖、飲料水、降雨に、その成分が検出されている。
世界の綿花農家の99%は農村地帯に住む小規模の土地所有者で、防護服が手に入らず、識字率も低いため安全についての注意書きを読むこともできない。 このため綿花の殺虫剤使用を直接の原因とした死者数は毎年少なくとも2万人、入院者数は100万人にのぼる。
不幸にも、このような影響をうけるほとんどが子供たちである。

作吉むつ美さん お話:作吉むつ美さん

有機JAS検査員・トレーナー
一般社団法人 日本オーガニック検査員協会 代表理事
NPO法人 日本オーガニックコットン協会 理事


国内のオーガニック基準の立ち上げにも関わってきたオーガニック検査のスペシャリスト。ハーベスト・プラスのお得意様兼モデルさん。
昔は自然食品の小売・卸業に携わっていたこともあり、美味しいものをたくさんご存知ですが、どんな食べ物に対しても感謝を忘れない姿勢には頭が下がります。

 
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