オーガニックの現場から
photo by Mutsumi Sakuyoshi

特集:オーガニックの現場から ~オーガニック認証の専門家に聞く~

第四回 オーガニックの現状と課題(最終回)

2017.6.6

<オーガニック認証のスペシャリストに聞く> オーガニック検査員協会代表理事である作吉むつ美さんのインタビューも今回が最終回。2016年オーガニックEXPOでの作吉さんのセミナーや各種データを交えながら、店長高橋がお話を伺います。

海外のオーガニックコットン繊維生産の現状と推移

現在日本では大半を輸入に頼っているオーガニックコットン。
それでは、どこの国で栽培されているのでしょうか。

海外の生産国は、多い時で24ヶ国、最近では18~19ヶ国と、決して多いとは言えず、またその顔ぶれにも変動が見られます。

全体の生産量、TOP5の国別生産量など、オーガニックコットン生産国DATA のページに掲載しています。生産国の変遷や、毎年度 上位の国が大半を占めている事がお分かりいただけます。

下のグラフは、2014-2015年の国別生産量の割合ですが、一目瞭然、圧倒的にインドが突出しており、上位4カ国だけで 91% を占めています。

オーガニックコットン国別生産量シェア

年々オーガニックコットン製品の流通量は増加し、皆様が目にする機会も多くなったと思いますが、生産も増えているのでしょうか。

実は 2009-2010年をピークに、翌年は一気に 37%も減少、生産国数自体も減少しました。その後も減少を続けますが、直近3期では、なんとか下げ止まっています。
不振の原因としては、世界的な経済不安、遺伝子組換コットンの台頭、インドでの審査厳格化、また最近では、気候変動、政治不安なども大きな要因といわれています。


数10万トンのオーガニックコットンといっても、ピンときませんね。
参考までに、およそ 35kg の原綿からできる製品の量は下記の通り。
 ・ジーンズなら 34本
 ・パイル地のバスタオルなら 109枚
 ・メンズTシャツなら 193枚
数学(算数?)が得意な方は、計算してみてください。(mt=トン)

では、栽培面積としてはどのくらいになるのでしょうか。
世界中の耕作面積(約 15億ヘクタール)のうち、通常綿を含む全コットンが占める割合は 2.1%。全コットンのうち 83%の畑は、遺伝子組み換えです。
つまりオーガニックコットン栽培面積は、世界中のコットン畑の 17% ということになります。
地域や条件にもよりますが、10アールの畑から採れるオーガニックコットンは、
およそ 53~75kg なのだそうです。
こちらも計算が得意な方、お試しください。

ちなみに、世界中の様々な農作物に使われる農薬や化学肥料の総量に対して、一般のコットン農家が使う量は、肥料は 3.6%、農薬は 7%、殺虫剤にいたっては 16%というレポートもあります。

インドのコットン栽培と悲劇

2007-2008年以降、世界のオーガニックコットン生産国の中では、インドの生産量が他を圧倒しています。
直近の2014-2015年を見ますと、世界のオーガニックコットン生産高でインドが占める割合は 67%! 通常綿を含めた全コットン生産量においても、25% で世界一です。

なぜこれほどインドで綿栽培が盛んなのか。
インドは、気候や豊富な労働力など、コットン栽培に優位な条件が揃っているといわれています。昔インドでは、綿花を「白いゴールド」と呼んでいたそうです。

ところが、遺伝子組換コットンの流入は、インドのコットン産業を大きく変えていくことになります。

--- 遺伝子組み換えコットンがインドにもたらしたものとは?

「遺伝子組み換えコットン栽培においては、そもそも とても厳しい条件で契約しなくてはならず、収穫後に採れる種を自家用に残すことは許されていません。加えて、肥料も農薬も買うように追い立てられていくという構造です。

私が聞いた話では、昔は化学肥料を使ってはいなかったと思いますが、今は化学肥料を購入して使う、そうすると生産性が上がります。
たとえば 従来 50kg くらいしか採れないところ、90kg 採れるとしたら肥料を買う価値もある。

しかし化学肥料を使って、農薬をまくということを続けると、虫や病気が増えるため、より多くの農薬が必要となり、だんだん生産性が悪くなってくる。

そうすると、出費は増えているのに、必ずしも綿花の単価は上がらないので収入は少なくなり、耐え切れずに悲しい道を選ぶということだと聞きました。」

インドの悲劇については国連大学webマガジンでも報告されていますので、よろしければ参考になさってください。

解決策のひとつとしてのオーガニックコットン

--- このような状況に対してどのような取り組みがなされているんでしょうか?

「悲しい事実の解決策として、私が訪問した団体のひとつは、オーガニックコットンに転換しました。

まず堆肥など農場内での作物循環を中心にすることが、大きなコスト削減になります。また、土壌のバランスが整えば、病害虫の抑制にもつながり、農薬のコスト削減にもなります。

もうひとつ、大きな問題が種です。
全部の農家さんが種を自家採取しているというわけではないんですが、自分のところで綿くりすれば種も採れますので、わざわざ買わなくても栽培することができる。つまり、もともとの在来の品種というのは、コストがかからない品種なんです。
結果的には利益が残って、生活が成り立つという方向に向かっているということを訪ねた農場で教えてもらいました。

そして、農薬や化学肥料で荒らされていた土壌が、徐々に健全な状態に戻ることによって、落ち込んだ収量も次第に回復してきました。
最初に化学肥料を使って生産量を伸ばした頃のスピードはないものの、出費がないので、利益が確保できるようになり、生産し続けることができるようになったんです。」

--- インドの綿花生産者の状況は、全体的に改善されつつあるのでしょうか?

「オーガニックへの転換が全ての問題を解決するわけではありませんが、少なくとも、ハッピーになった方たちがいるのも事実です。
一方最近ではオーガニック云々というより、子供たちの労働についての問題がクローズアップされています。 インドの子供たちの悲惨な状況についてはまだまだ改善の余地がたくさんあります。」

日本国内での綿栽培

--- 国内の綿花栽培についてもお伺いしたいのですが、現在は自給率ゼロでも、昔は普通に作られていたんですよね?

「日本でも、戦国時代から江戸期にかけては、綿栽培が盛んでした。
しかし明治時代には、綿布の生産の方が盛んになり、次第に原綿は輸入にシフトしていきました。
今では、輸入原綿の加工が主になっているので、統計上、国内生産に関するデータは出ていません。

綿花栽培がなぜ進まないかというと、日本の風土に綿花栽培が適さない、生産性が悪いなど、いろんな要因があると思います。」

--- 綿花栽培に適した土地の条件とは?

「綿花の栽培には、降霜のない長い季節と、年間600~1200mm程度の降水量が必要です。温度としては、25度程度が長く続くことが理想的。
現在宮城県でも栽培中なので、温暖化もあって栽培の分布限界が北上しているのかもしれません。」

--- 国内栽培の現状は?

「2011年、全国でコットン栽培に取り組む人たちが集う”全国コットンサミット”が立ち上がり、少しずつ栽培が広がっています。
東日本大震災後、それまでの作物が作りにくい土壌環境になってしまっている場所でも、コットンなら塩害が懸念される土壌でも生育できることから、東北コットンプロジェクトや、ふくしまオーガニックコットンプロジェクトなど、東北で作付けが広がっています。量としては多くないものの、有意義な活動として注目されています。JOCAでも、オーガニックでの栽培を支援しようと関係づくりに取り組んでいます。」

--- 国内での綿栽培は増えているんでしょうか?

「試みる人、関心が高い人は確実に増えています。アンケートなどからも、日本で新たに綿栽培を志す方々は、オーガニック栽培が多いように聞いています。

しかし実際のところ、国内生産のオーガニックコットン100%での製品化は難しいので、ワークショップや、一般綿を混ぜた特産品を作って産地起こしとして活用するケースが多いと思います。
すでにお話した通り、現在はコットンそのものが、JASの対象となって
いません。製品表示におけるガイドラインだけしかありません。でも、有機
JASの見直しのたびに検討は重ねられています。」

オーガニックが抱える課題

--- ところで、東京五輪・パラリンピックで選手村の食材にはJGAP認証が必要だということが 最近話題になっています。少し話しはそれますが、気になっている方もいらっしゃると思うので、簡単にどういうものか教えていただけますか?また、JGAPは有機JASに加えて消費者の指標となるものでしょうか?

「私は JGAP ができる前、きっかけとなったEUREPGAP(現在 GLOBALGAP)の日本への導入時期に関わりました。
基本はBtoB取引での指標となるもので、特に有機JASのような認証マークが商品パッケージに付くというものではありません。
農場の品質管理マネジメントにおいて普通にやらなければいけないことを基準化
しているもので、流通業者が生産者をすべてチェックすることはできないので、GAPはとっておいてよね、っていうもの。

農薬取締法が有名無実化していた頃、その辺に農薬が転がっていたりしてても、「あ、これは有機で使うヤツじゃないから関係ないよ」と言われたり、決められた使い方がされていなかったり。
「これでいいんだろうか?」とずっと思っていたところへ、GAPを知る機会があったんですね。
生産者にしても、悪気があってのことではなくても、ずさんな所がずいぶんあった。そこでGAPがいう、何を作るために、何がどれだけ必要なのか。これは環境に負荷があるんじゃないか、農薬にしても肥料にしても、法律に基づいてやらなきゃダメじゃないか、というのがとっても大事だと思ったわけ。
まず、農場管理の基本としての要件を満たしたうえでの有機でしょ、と。」

JGAP(ジェイギャップ)
JGAPは農場やJA(農協)等の生産者団体が活用する農場管理の基準です。農林水産省が導入を推奨する農業生産工程管理手法の1つです。
JGAPの基準には、120を超える農場のチェック項目が定められています。農薬の管理、肥料の管理など、食の安全や環境保全に関係する農作業について、明確な基準が定められています。

日本GAP協会 http://jgap.jp/

--- さて、今年2月にドイツでのオーガニック関連見本市BIOFACH(ビオファ)や、GOTS(Global Organic Textile Standard)の経営者会議を回ってこられたんですが、まず今年のビオファ見本市の傾向はいかがでしたか?
* GOTSについては第一回をご参照ください。

「ビオファでは、テキスタイルのコーナーは無くなっていました。テキスタイルは他の展示会に移ったようです。滞在中にオーガニックのマーケットで見たの
も、下着やソックス程度。
一方、今年目についたのは オーガニックフラワー。展示会でも、スーパーでも、いくつか見かけました。それと、数年前から注目が集まっているビーガンやグルテンフリーの食材も増えているように思いました。 」

 *ビーガン: 絶対菜食主義
 *グルテンフリー: 小麦などグルテンを含む食品をとらない食事法


photo by M.Sakuyoshi 左:ドイツBIOFACH会場のBioフラワー 右:ドイツのスーパーマケットで売られているvegan食品

ーーー GOTSは経営者会議ということですが、何か私たちが知っておいた方がいい事はありますか?

「GOTSも毎年進化していますが、今年でVer.5になりました。
昨年GOTS認定を受けた工場の数は、全世界で前年比120%増です。ドロップアウトする所もあるけれど、毎年 100~120%のペースで伸びています。
オーガニックについてはもちろんですが、今年は人権についても話し合われました。
グローバルなオーガニック認証の中でうたわれているのは、あくまでも生産と技術の話で、働く人たちの条件までは特に入っていません。まあ、オーガニックなので農薬被害はないけれども、過酷な状況で働いているかもしれない。
なので、これからはそこまで踏み込もうよ、という話ですね。

日本では当たり前の事も多く、「そんな事まで入れなくても...」と思うこともあるんですが、やはりグローバルスタンダードを策定する組織としては、いろいろな方面から意見が来るわけで、結果、どんどん立派になりすぎている感もあります。

でも、必ずしも認証を取らなくてもいい、GOTSの基準を見て、農場、工場に取り入れられる部分は取り入れ、こういうことが大事なんだという認識を持って経営してもらえると嬉しいです。

他にも、次のような問題について議論が交わされました。

ひとつは、消費国では、オーガニックコットンを産業として育成するために、認証などを含めたある程度の素地ができつつありますが、ここへきて遺伝子組み換えの問題が複雑にからんできています。
つまり、遺伝子組み換えの波及・侵食力がいかに強いかということ。
インドでは、すでに65%以上のコットンが遺伝子組み換えです。
半製品、製品から遺伝子組み換えの材料が使われたり、混じっていることを分析
で解明することが、まだできないのです(分析技術が確立しきれていない)。
もはやどの段階で、どういうやって入ってくるのかを解明するのは難しく、オーガニックの生産環境が、各農場の努力を超えたところで侵食されているといえます。

ふたつめは、プレオーガニックしか買わない商社の存在です。
つまり、オーガニックに転換途中の綿で買い付ければ、消費者イメージも良く、価格も安い。そうすると、完全にオーガニックとして育たないうちにやめて、次々と農地転換していくだけの生産者が出てくるんですね。これでは、何のためのオーガニックなのか、とても腹が立ちます。
 *プレオーガニックコットン: オーガニックを目指して転換中のコットン


最近思うのは、アパレル業界は、どんどん新しいものを作って提供していくものでしょうが、作るだけ作って無駄が出ているような気がして、もっと消費の仕方を提案していくような形があってもいいんじゃないかと思っています。

生活に必要なものを、全部オーガニック&フェアトレードで揃えるのは大変だけど、選べる余裕がある時には、そういうものを選びたい。じゃないと、私自分やっている仕事が、何に影響していくのかを受け入れられないから。


最後に、テキサスのコットン農場を尋ねたときのことを。
足を踏み入れると、一般綿の畑の土は硬い。
オーガニックの畑の土は柔らかい。
この違いは、誰にでも感じてもらえるほど、はっきりしていました。
そして、こうした違いは、他の地域、他の作物でもよく見られます。
よくできたオーガニックの畑の土の特徴といっていいでしょう。」

第一回から最終回まで、足かけ2年もかかってしまいました。 もちろん状況は日々刻々変わりますから、これをもって総括できるものではありません。また折にふれて、サスティナブルに生きる意味を、皆様と一緒に考えて行きたいと思います。 長らくおつきあいいただき有難うございました。

作吉むつ美さん お話:作吉むつ美さん

有機JAS検査員・トレーナー
一般社団法人 日本オーガニック検査員協会 代表理事
NPO法人 日本オーガニックコットン協会 理事

様々なオーガニック基準の立ち上げに関わったオーガニック検査のスペシャリスト。世界中を駆け巡る体力の源は、こだわりの調味料できちんと作った美味しい食事とバドミントン♪ (多分)
 
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